はじめまして。石川県(北陸地方)で「おんころカフェ」を開いている、きくちたけし(菊地建至)です。
菊地さんって大阪じゃなかった? いや一時期、東京でおんころカフェしていたような?そんなふうに思われた方もおられるでしょう。短くですが、今回そのあたりの経緯や現状報告を簡単にさせていただこうと思います。
いま2021年3月ですからもう6年前のことになります。2015年4月、わたしはそれまで生活・活動の拠点にしていた大阪・京都を離れ、金沢(石川県)に来ました。
中岡成文さんと佐野桂子さんが中心になっておんころカフェの活動を始めたのが2016年5月ですから、そのときわたしはすでに大阪・京都から金沢に移っていたことになります。
とはいえ、2015年以降もしばらく大学での講義のために定期的に大阪に通ったり、哲学カフェや市民対話の場を大阪、京都などで継続して開いたりしていたから、「住み働くのは、石川。対話や活動の場は、大阪・京都(東京、名古屋その他さまざまな地域でときどき)のほうが主になっている。」という期間が、2018年頃まで続いていた、と言えるでしょう。
その間に、中岡さんや佐野さんから市中の対話の場について相談を受けたり、中岡さんが進行する大阪や東京でのおんころカフェに参加したり、おもに東京でのおんころカフェの進行やおんころ対話研究会の企画・開催にかかわったりということをしていました。東京でのおんころカフェ・おんころ対話研究会については、孫大輔さん(現在鳥取大学、当時東京大学、医師)と大野智さん(現在島根大学、当時大阪大学・帝京大学、医師)のご協力なしにはできなかったであろうことも特記させていただきます。
わたしが進行をさせていただくおんころカフェでは、最初に、つぎのような案内をします。この案内も、おんころカフェの仲間と話すなかで少しずつできあがっているものです。少しずつ変化していくだろうと思いますが、いまはこれです。
人生のなかにがんや難病がある人が、カフェという感覚で、他の人の言葉を聞いたり(対話したり)考えたりすることを楽しむ時間・場所「おんころカフェ」
てつがくしゃ(哲学者)のきくち(菊地)もほどよくそこにいます。
「ようこそ。なにかと速さや効率が求められる社会・日常生活ですが、ここは「スローに(急かされず、早合点できめつけず)」対話したり 考えたりすることが歓迎される場所なので、気楽にどうぞ。」
ルールというほどかたいことではないけれど、大切にしたいこと
1 相手の話も尊重して聞く。相手の疑問も尊重して聞く。自分に生じた考えや疑問も尊重して聞く。「小さな声」も聞く。
2 「スローに(急かされず、早合点できめつけず)」を歓迎する。
3 よい環境を作る。よい環境をキープする。そのことはみんなで。
同じように「おんころカフェ」といっても、その場の個性があり、地域の特徴もあるように思います。わたしが東京でかかわったおんころカフェと現在石川でかかわっているおんころカフェの相違点や共通点を記すことも有意義かもしれないと思いますが、それは後の機会にということにして、以下では、金沢のある拠点のおんころカフェについて、少し紹介させていただきます。
石川県金沢市に「つどい場・はなうめ」というがんサロンがあります。どんな場所か、毎日どのようなことが行われているのか、ここに短くまとめることができないほど多様なことを、継続的に、行っておられます。興味をもたれた方はぜひ下記のリンクから直接ホームページをご覧になってください。
https://saiseikaikanazawa.jp/hanaume/contents/tsudoi.html
所長の龍澤康彦さん(石川県済生会金沢病院、医師)をはじめとする様々な方々のご理解を得て、木村美代さん(はなうめの常勤スタッフ、看護師)と常に相談し、参加者やはなうめに通っておられる方々の声も伺いながら、はなうめでのおんころカフェを開いています。
わたしが大事だと思っていることの1つが、はなうめのおんころカフェが毎月開催のイベントになるまでに、ゆっくりとした時間と関係があったということです。
わたしがはなうめでの対話に最初に参加したのは、2018年11月、図書館司書さんがそのときのテーマにあった本を紹介し、それを起点に、参加者で自由に話す「ビブリオ座談会」に参加させていただいたときです。参加者も本を持ってきたり、はなうめにある本棚を見たり、そういう自由もありました。11月は佐藤愛子さんの本が集められ、翌月の12月は「冬」がテーマでした。わたしも『ポーラー・エクスプレス』を持参し、俳優による朗読をみなで聞いたりもしました。
2019年4月から2020年3月までは、奇数月は「ビブリオ座談会」偶数月は「おんころカフェ」と一か月交代で対話の場が開かれました。たいてい、司書さんもおんころカフェにも参加し、わたしもビブリオ座談会にも参加しました。
はなうめでのおんころカフェの初回は、2019年4月ということになります。木村さんと相談し、テーマを決めずいきなりフリートークという形にすると難しいかなということで、毎月のタイトルをつけることにしました。じつはこの年のテーマは、わたしがこれまで開いてきた様々な対話ではテーマになることがほとんどなかったものばかりでした。
「連休」4月、「星空」6月、「夏休み」8月、「運動会」10月、「クリスマス」12月
はなうめのおんころカフェに集う人たちにとって、特定の学習内容も話題本もなくただ参加者どうし対話するということだけで成り立つ場、そのような場に参加すること自体、おそるおそるという感じだったかもしれない。しかし、上記のようなタイトルで集うことで、
多様な方が、そんなに緊張が続くようなこともなくリラックスし、対話されていたことを思い出します。木村さんや参加者のみなさんとアイデアを出し合いながら、関係を深めながら、はなうめのおんころカフェってこういう形がいいかもねというものが見えてきた年でした。
翌年の2020年4月からはなうめのおんころカフェを毎月開こうということになりました(ビブリオとおんころは一緒になり、いまビブリオはおんころカフェの人気の1コーナーとなっています)。2020年度は基本的に毎月第4土曜日の朝に固定し、おんころカフェを開催する。そこで、それに先立つ2020年2月のタイトルをこれまでのような時期にあわせたタイトルとはちがって「しあわせ」としてみました。わたしたちにとっては少し冒険です。そしてその日もとてもいい時間になりました。4月からは「ともだち」「落ち着き」「お祭り」「距離」「宿題」「開花と実り」「欲」「お天気」「どんな1年だった?」「贈りもの」「冬の過ごし方」「出会い」という各回のタイトルを起点として、しかしタイトルにそれほど縛られもせず、はなうめのおんころカフェは続いています。
わたしが石川県でかかわっているおんころカフェは、はなうめのおんころカフェのほかにもありますし、これからも少しずつ増えるかもしれません。しかし、おんころカフェの数を増やすことを目指してはいませんし、現在の感染症の状況を考えると新規の場所でおんころカフェを始めるということはもう少し先にしたいなと思っています。
それというのも、はなうめのおんころカフェもそうですが、(たとえば石川県でのおんころカフェ参加者の多くは人生の大半をこの地域で暮らしている、おんころカフェ参加以前すでにどこかでお互いを知っていたり同じサロンや病院に通っていたりする人も少なくない、そういう)緩いコミュニティのようなものが先にあって、そこに対話の場がほしいということがあって、おんころカフェが生まれていく、そういうあり方も大切にしたいからです。
はなうめのおんころカフェの場合も、先にあるのは、はなうめとそこにかかわる様々な人たちです。そしてわたしは訪ね、通い、迎えられ、共にはなうめのおんころカフェを作り、そして開き続けられています。大都市でない地域のおんころカフェのあり方の1つとしてのこの報告記事が、どなたかの安心や力づけにつながるならばありがたいなと思います。
あるとき木村さんから「「おんころカフェ」はきくち先生にとってどんな時間ですか?」と尋ねられました。そのときの答えがはなうめのホームページに載っていますが、ここに転記させていただきます。
はなうめ(金沢)のおんころカフェは、土曜日の朝に開かれます。仕事のスケジュールからすると土曜日の午前はわたしはとてもしんどいことが多いのですが、いざみなさんが集っているところに顔を出し、おんころカフェを開始すると、毎回「いい時間だったな」という思いでその日の午後も明るく過ごしている自分がいます。
それは、参加者のみなさんと共にしたとてもいい時間ということが第一ですが、それだけでなく、朝のおんころカフェを離れて一人に戻ってもしばらく、おんころカフェの対話やみなさんの声・表情を出発点とする快い感覚や知性の動きが自分にあって楽しいということでもあるように思います。その場で進行させていただく者としてだけでなく、個人としても、いい時間だったな、ありがとう。
以上です。
石川県での新たなおんころカフェの可能性についてなどご相談のある方は、まず下記のおんころカフェの問い合わせメールアドレスにお尋ねください。
問い合わせ info@oncolocafe.com
石川県在住ではなうめのおんころカフェへのご参加を考えておられる方は、下記のはなうめ(石川県がん安心生活サポートハウス)の問い合わせメールアドレスにお尋ねください。
つどい場はなうめ(石川県がん安心生活サポートハウス)tsudoiba@saiseikaikanazawa.jp
2021年3月10日 菊地建至